あ〜さんの音工房

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マツダ CX-5 を試乗

 

 13時少し前に着いた。暫く待ってくれと言われたので小綺麗にディスプレイされているカタログの中から『フレア クロスオーバー』を手に取った。スズキから供給されているマツダの軽自動車だ。本家の『ハスラー』同様大好評で現在納車まで3ヶ月待ち。『ハスラー』は一時期1年待ちになりかけたので、大増産をかけたそうだ。おかげでマツダに回す分も出来たのだろう。


「お客様、お待たせしました」
 お目が高い、でお馴染みのKさんだ。やたらと日焼けしている。盆休みに遊んでいたのかと思いきや、ひたすら働いていたそうだ。試乗に次ぐ試乗の日々だったのだろうか。もはや国籍が怪しいほどに黒い。
 暫し雑談に興じたが、話題はNDに。来年のデビューは確実で、今年中にほぼ市販車がモーターショーで発表されるそうだ。デミオに搭載されるクリーンディーゼルの設定はなく、1.5Lガソリンエンジンのみになるらしい。今回は直接のライバルがアルファ・スパイダーになるし、ホンダS660とは被るしで不安要素たっぷり。健闘を願うばかりだ・・・。
「それでは用意して参ります」Kさんが席を立った。いよいよ試乗に向かう。グレードは XD の4WD。ディーゼルエンジン搭載車だ。



 マツダ車は大抵そうだが、まず見た目が良い。躍動感があり、力強く、乗る前から期待感のある仕上がりだ。ヘッドライトと呼応させたテールランプ一つとっても見事なデザインだ。



「お客様、まずは私が運転して参りますので、助手席の方でお寛ぎください」
 ドアは小さくはなく、重くもない。ごく普通に乗り込むことが出来た。シートはやや大振りで、私の体型だと左右方向にゆとりがある。背もたれは心地よい。足下は広々。好印象だが強いて言えば内装に高級感が欠けることがネガティブな面だろうか。気になる人は気になるだろう。
 アイドリング状態での音だが「働くディーゼル車」のガガガではなくチチチで、軽油で走るのだと知らされていなければ気にならない程度だ。
 振動は相当抑え込まれていて全く気にならないが、これはアイドリングストップ機能と無関係ではないだろう。(その少し前から燃料の供給が止まり)停車してエンジンが止まる→ブレーキを放すと再始動する。市街地走行ではこれを繰り返すことになるが、エンジンを切ったり点けたりすると言うことは、その度に騒音と振動をアピールすることになりかねない。無音・無振動の状態から発進して違和感がない程度にまでそれらを減少させるのは相当大変だっただろうと思う。


 国道に出て走り始めると、マツダ車らしくやや固めの乗り心地だ。ステアリングからは情報が得られ、タイヤや路面の状況がある程度分かる。加速時には排気音ではなくディーゼル車らしいエンジン音が聞こえて来るが、すぐそこにあるはずの音源が遠くにあるような感じだ。いろいろと対策した成果だろう。このディーゼルエンジン特有のガラガラ音は、ディーゼル車に縁のない人には違和感があるだろうが、様々な「働くディーゼル車」を運転した経験がある私には、よくぞここまで抑えたと思えるレベルだった。「働くディーゼル車」の加速時のガラガラ音は、助手席の相方との会話を中断しなければならない程なのだ。
「お客様、こちらを右折いたします」
 左折を繰り返して終わりなのだろうと思っていたが、どうやらそうではなさそうだ。
「ここから山の中腹のホテルまで参りましょう」
 なんと今回はNCの試乗会で使ったコースを走らせてくれるらしい。買わない相手に太っ腹なことだ。国道を外れたところで運転席に座った。


 ドライビングポジションは高くはなく、乗用車と変わらない。前方の見切りは問題ないが、後方の窓が小さく感じると告げると「お客様、お目が高い」待ってましたとばかりにKさんがコンソールのスイッチを操作した。「全クレードにバックモニター標準装備でございます」ルームミラーの端にその画像を確認する事が出来た。「サイドモニターもございます」運転手甘やかし装備満載のようだ。
 ステアリングを握ってみてまず感じるのは、重くないということだ。1トン600あるという車重をまるで感じない。押し出しの強い外観なので、見た目には大きく感じるが、操作した感じは大きくも重くもない。決して軽快に走るという訳ではなく、落ち着いてはいるのだが、加速・減速・旋回ともにスムーズで、良い意味で普通なので、なんなら小型車を運転しているのと変わらないくらいだ。逆に普通過ぎて本当にディーゼルエンジンSUVなのかと違和感を感じる。これがクリーンディーゼルの乗用車と言う事なのか。
 大抵のミニバンは2トン500もある車重に2,5Lガソリンエンジンを載せているが、馬力150トルク25程度なのでとても重く感じるし、なにより減速しない。個人的にはストレスが多すぎるので、あんなもの日常的に運転するのはご免被りたい。車重1トン600で、2,2Lディーゼルエンジンを載せ40を超えるトルクを誇る『CX-5』は、アクセルを深く踏み込めば過剰なほどに加速するので、せっかく山道に来ているのにアクセルペダルをベタ踏みする機会は1度もなかった。すぐに速度が上がってしまうからだ。『CX-5』の売り上げの7割がディーゼル車だというのも納得だ。ささやかな動力性能を使い切るのも運転する楽しみだが、余裕ある性能を小出しにするのも悪くない。今時はこっちが正解かな。ちなみに燃費計は12,0を示している。
 
 思いのほか運転すること自体が楽しいので、地元の峠を走ってみたい思いに駆られたが、この車はゆっくりと街中を走っていても楽しめる扱いやすく快適な車だ。zoom-zoom思想がよく現れていると思う。強大なトルクはどんなシチュエーションでもアドバンテージにしかならないので、高速をクルージングするのもよし、西友に買い物に行くのもまたよしだ。きっとバックモニターが役立つ事だろう。見た目は男性的でがっしりしていて扱いにくそうな『CX-5』だが、そんなことは少しもない。試乗はディーゼルエンジンのXDがおすすめだ。ディーゼル車に悪い印象を持っている人ほど乗ってみて欲しい。それは驚きの体験になるに違いない。



 自動車は今後も内燃機関で動力を得るだろう。藻類が石油代替エネルギーになるからだ。私はほぼ石油と同じように使える藻類を国産し、自給するべきだと考えている。原発どうこうしている場合じゃないんだ。マツダはすでにディーゼル車を軽油に藻類油を70パーセント混ぜた燃料で走らせることに成功している。なぜ国をあげて促進しないのか謎だ。国内のエネルギー需要の全てを自給自足できる可能性があるのにだ。未来の車がモーターで動いているとはとても思えない。今後大手が本腰を入れてマツダに追いつけば、国内のディーゼル乗用車市場は一気に加速するのではないだろうか。『CX-5』の出来は、それほど良かった。
「お客様、お目が高い」
 Kさんの肌が焼ける日々は、まだまだ続きそうだ。