あ〜さんの音工房

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ヤマハ CG-171S を丸裸にする(動画を添えて)

 



 リサイクルショップの片隅で、人知れず埃をかぶっていたのを発見。¥14.460 税・送料込。さすがにクラシックギターを通販で買うのは躊躇われるが、ひとつ前の型のヤマハだし大丈夫だろうと楽観。とにかくクラシックギターが手元にないと始まらないんだ。それ、ポチッとな。



 '00年3月発売。希望小売価格¥46,000 税抜。台湾工場製。量産品のクラシックギターを手にしたのは初めてだ。20代の後半から始めて、桜井→ジェイコブソンと弾き継いだが手放してしまって久しい。これからはこのギターでクラシックレパートリーを弾くぞ。エレガットにおさらばなんだぜ。クラシックギタリストにカムバックだ!(9年ぶり2回目)。早速『CG-171S』がどんなモノなのか見て行こう。



 まずは液体コンパウンドで全体を磨いたが、傷やへこみは見当たらず外観には問題のない個体だった。塗装はヤマハなので全面ウレタンだが、へッド表面はサンダーを当てていないようで、平面が出ておらずやや波打っている。上端はなかなか良いデザインだが(モチーフは富士山か?)、塗装の厚さに邪魔されて、切れ込み部分のシャープさを欠いている。化粧板はローズだ。



 弦蔵は斜めに削られた部分と滑らかにつながっておらず、更には全く研磨されていない。そしてその部分にバフ掛け時に使った研磨剤が入り込んだままだ。ナットはプラスチックで固定されている。



 糸巻きは売値で¥3000程度のゴトー製と思われる。またタグが付いたままになっていることから、あまり弾かれていないと推測出来る。『Solid Top』とは表面板が無垢材であることを表している。逆に横・裏板は合板ということでもある。



 ネックはナトーと言う聞き慣れない材だが、見た感じはマホガニーっぽい。ヘッド部分で継いであり、ネック自体は機械で精密に加工されている。指板はローズ。触れた感じは今ひとつで、黒檀のしっとり感はない。真っ黒なので色をつけてあるのではないのか? 指板面はマスキングを剥がしたまま何も手を加えていないようだ。フレットは細めだが、しっかりと打ってあり浮きなどは確認出来なかった。また側面の5、7フレットにポジションマークが埋め込んである。



 この部分はかなり荒い。マスキングを剥がしっぱなしで何も手を加えていない事は変わらずだが、指板の端を丸めておらず、角ばっているとは。初めて見たが、量産品では珍しくないのかもしれない。出来るだけ手をかけない様子が見て取れる箇所だ。角を取りたいところだが、着色してある可能性があるし(色が落ちてしまう)オリジナルの状態を尊重しておこう。




 驚いた事に横・裏合板の、ローズのツキ板は木目が合わせてあった。この価格でマッチングしてあるとは静岡の材木屋さんの面目躍如と言ったところか。なかなかナイスな木目で、こりゃ有り難い。



 装飾はシールのはずだが、



 寄せ木に見える。よく出来ているな。




 駒はローズだが黒く着色してあるようだ。全体的に角がなく、ぽってりとした作りでキレがないが、ここも寄せ木と獣骨に見える。もしかしたら量産品の恩恵で「本物」の可能性もあるのか? いずれにしても装飾はよく出来ている。お値段以上だな。



 ブリッジは獣骨でチューニングを考慮して3弦が通る部分が加工してある。この面と底面以外は研磨してあり、つるつるだ。サイズもぴったりで、ぐらつく事もない。



 『solid Top』でお馴染みの表面板には、なんと!



 な、な、なんと! 



 ド派手な模様が浮き出ているではないか! まるで雷のようだ、ロックだぜ! サイトの画像では気がつかなかったことだ。店で埃をかぶっていたところを救出したご褒美なのか? ありがたいことだ。
 表面板はスプルース材なので、どんな力木の並びかを(また不具合がないかを)ある方法で透かして調べてみたが、見た事がないほど堅牢な作りになっていた。基本は6本の扇形配置だが、高音弦側のホール手前が短くなっており、そこにもう1本置いてあった。更に駒裏全面やホール周りはがっちりと「補強」されている。指板下には高さのあるごついのが2本貼付けてあるし、上から下まで足の踏み場もないほどだ。ここまでやっている物は見た覚えがない。音質のコントロールよりは壊れない事を第一に考えられているのではなかろうか? ドイツ車並の安全対策が施されているようだ。



 『ヤマハCG-171S』は低価格な量産品らしく投げやりな工作が目立つが、ヘッドのデザインやボデー形状、木目や色合い、装飾など実に良い感じで、外観は大変カッコよろしい。流石はヤマハ。ネックの付け根などウレタン特有の白濁が出て来ているが、ピカピカの表面板に刻まれたえげつないほどの雷模様の前では取るに足らないことだ。合成接着剤を使ってガッチリ組み上げてあるから丈夫だろうし、木工品としてのコストパフォーマンスは十分だと言える。力木の配置がどうだろうと、これでスプルースらしい音色なら文句なしだ。弦を張って音を出してみよう。なにしろ通販なので、まだ音を聴いていないのだ。



 弦も通販。プロアルテ・ノーマルテンションを張る。いつの間にやらパッケージのデザインが変わっていたが、相変わらず良い仕事してくれる頼もしい奴だ。米国製なのに音程正確、音色良好、安価でどこでも手に入る。コストパフォーマンス最高。どうした日本勢。


 さて、聴かせてもらおうか、『Solid Top』の性能とやらを!



 ネックは幅・厚さ共に標準的で、ボデー厚も普通だ。糸巻きはさすがにやや渋いが、使用に差し支えはない。重量が少しばかり重めではあるが、いわゆるプレイアビリティは良好と言える。音程も問題ないようだ。
 弾いた感じはやや音離れが鈍く感じる。粘り着くことはないが、弦が風にそよいだだけで歌い出すことはなさそうだ。音の立ち上がりが今ひとつだな。
 音色は聴いての通りだが、力木でダンピングしすぎているのか所謂「バカ鳴り」はしない。おそらく遠達性にも欠けていそうなので、ホールで弾いて映えるタイプではないだろう。反対に自宅で弾いている分には丁度良いと思う。音色の引き出しは備えているので、腕があれば使い分ける事も出来るはずだ。


 この個体に対する評価は、外観→お値段以上・音色→お値段相当と言ったところだ。ブランド力が物を言っていると思う。初心者や復帰組には十分だろう。低価格なギターを求めるのなら、中途半端に安価な手工品(特に中古)よりは、ヤマハやアリアなどの長年クラシックギターを作り続けてくれている量産メーカーを選んだ方がよろしかろう。事実この個体は最長15年落ちにもかかわらず即戦力だった。本来ギターは不具合を直しながら愛奏して行くものなのだが、低価格で修理代がかさんではしょうもないので、壊れないように丈夫に作ってあるのだ。なのにこのクオリティなのだからブランド力は伊達じゃない。
 音色が良くなくては長く使えないのではという心配もあるだろうが、クラシックギターは奏者によって驚くほど音色が変わるものだ。他の人がこの個体を弾いても同じ音色にはならない。もっと麗しいこともあるし、しょしょぼのこともあるのだ。まずは自分に合った爪の形を見つけることだ。そうすれば同じギターがまるで違う音色を奏でてくれる事に驚くだろう。初心者の「音色が今ひとつで」は楽器ではなく自身に問題がある事がほとんどだ。
 だか、しかし所有する喜びや、満足のゆく音色や表現力を求めるならばやはり手工品しかないのも事実だ。その時が来るまでは私のように、出来るだけ低価格で使えるものを探すのも一つの手だ。みなさんも気軽に始めてみたらいかがだろう。低価格でも使えるギターがありますよ。


 意外ほどスペイン風味なスプルース表面板の音がして、作りは雑だがいい感じに装飾が施されたカッコよろしいこのギターは、イカした雷模様から『サンダー』と命名して愛奏する事に決定。これが¥14.460(税・送料込)とはお買い得だったよ。ついてたな。若かりし頃のセゴビア気分で弾いちゃうんだぜ。よし、次はバッハに挑戦だ! 俺の『サンダー』が火を噴くぜ!


 



 おっさんさんコメントありがとうございました。


 今でもこのギターを弾いていますが、おっしゃる通り一向に鳴り出す気配はないです。あの力木の配置とウレタン塗装ではしかたないでしょうね。しかし(ケースがないので)出しっ放しのノーメンテでもなんの問題も起きないので重宝しています。量産品のクラギは驚くほど丈夫なようで、ありがたいです。


 
 SISIZAさんコメントありがとうございました。


 ヤマハCG-171Sはとりあえずの1本にはなりましたが、長年愛用出来るものではありませんでした。今は一流製作家の手工品を愛奏しています ↓


 https://youtu.be/Lto9YvTz1qo