あ〜さんの音工房

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マイケル様の本が届く

 

 『文藝別冊 永久保存版 総特集 マイケル・シェンカー 神、降臨ー永遠のフライング・アロウ』という長いタイトルのムック本が届いた。60過ぎの爺さんが未だに求められて止まないのだ。流石はマイケル様。



 中身をチラ見したけど、冒頭の伊藤政則氏の最新版「マイケル様を語る」が呼び物で、後は数人のインタビューとエッセイに、不要なマンガ。巻末にディスクレビューがあるだけだ。雑誌に特集された時のレビューも同様だが、今回のレビューもぬるい。
 例を挙げるとアルバム『PHENOMENON 現象』の冒頭は「マイケル加入第1弾となるアルバム『PHENOMENON』は、UFOが大空に向かって離陸した瞬間だ」と始めているが、この本は『文藝別冊 永久保存版 総特集 マイケル・シェンカー 神、降臨ー永遠のフライング・アロウ』なんだろ。このアルバムが「UFO」にではなく「マイケル・シェンカー」にとってどの様な意味合いを持つのかを書けよ。最も重要なのはこのアルバムを成した時点で、マイケル様はまだ10代だったことだ。マイケル様は誰もいない荒野の中このアルバムでプレイした訳じゃないんだ。既にレッド・ツェペリンやディープ・パープルなどの先達が居た中、さらに言えば子供時分には散々ビートルズのコピーに励んだにも関わらず、その誰とも違う個性溢れる演奏を成し遂げていることこそ特筆されるべきだろう。しかも10代でだ。そのことを書いてくれよ、山崎さんよ(文責 山崎智之)。
 そして山崎さんはソロプレイに触れて「5の(Rock Bottomのことですが)6分半という曲の長さをまったく感じさせないスリリングなソロ、そしてインストゥルメンタル9の(Lipstick Tracesのことですが)泣きむせぶメロディはマイケルのキャリアを通じて屈指のベスト・プレイに挙げられる」と書き綴っているが、ぬるい。
 Rock Bottomのソロパートはメインの部分がワンコードだということからも解るように、マイケル様がアドリブしたいが為に書かれている。従ってライブ演奏される際には気分次第で小節数が大きく変わり、年を負うごとに変質して今や10分前後の演奏時間に伸びていることもしばしばだ。そして、それらはことあるごとに録音・録画されていてオリジナルの録音を凌駕する演奏がいくつも存在する。
 そしてLipstick Tracesに至っては泣きむせんではおらず、平穏な演奏に終始している。これらを「キャリアを通じて屈指のベスト・プレイ」とはなんたる言い草。ソロプレイのハイライトはSpace Childで起きている。これこそ「キャリアを通じての屈指のベスト・プレイ」であり、マイケル様の天才が溢れ出た瞬間だ。なぜこれを感じることが出来ないのか。山崎さんにはマイケル愛が足りないんだと思う。そしてなにより、ぬるい。ぬる過ぎる。


 さて、長いタイトルのムック本は後でニヤニヤしながら読むとして、これまでにも雑誌の特集ではない「マイケル本」は結構出版されていて、先日もUFO時代に特化した物があったが、これはインタビューのまとめと、機材と演奏スタイルに焦点を当てたもの ↓



 それ以前にも同じような物はあった ↓



 こちらには、それらに加えてタブ譜が10曲も付いている。上のやつは譜例しかないが、それも「◯◯風」とか「◯◯スタイル」などと口を濁して印税の発生を防いでいる。しょーもないことだ。両方ともヤングギター誌の別冊だが、近年のヤンギ本誌は大人の事情により新譜のタブ譜を掲載しないことでお馴染みだ。何曲も載せる必要はないので、タブ譜は1曲だけ。ただし話題の最新アルバムからとかに出来ない物なのだろか? 読者はそれを望んでいるのではなかろうか。


 直接は関係ないが、フライングVだけの本もあったりする ↓



 そして何と言っても「マイケル本」の嚆矢にして最も充実しているのは伊藤政則氏による『マイケル・シェンカー フライング V 伝説』だろう。



 ビートルズコピーバンド「エノヴェイツ」の結成から、MSGのセカンドアルバム『神話』製作までのマイケル様の音楽的半生を綴った伝記で、邦人で最もマイケル様に詳しい伊藤政則氏が知り得た事実をまとめて82年に刊行されたものだ。当然と言えば当然だが、この本が最も読み応えがある充実した内容だ。
 伊藤氏は近年「伊藤政則の遺言」と題したトークショーを行っているが、その内容をまとめて書籍化されないだろかと期待している。てかされるべきだろう。この業界の生き字引である伊藤氏の知識は後世に受け継がれて行くべきだ。


 あと何冊の「マイケル本」が世に送り出されるだろう? 実のある物を期待したいところだが、どうなることやら。