あ〜さんの音工房

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『松のロマンス』を弾く#4

 

 続いて14小節から19小節までを見て行こう。
 14小節頭にはpの指示がある。17小節からは10度の和音で動かしていて一見別のことをしているようだが、これも主題の変形に他ならない。そして18小節2拍目にpとritが付いているが、これは違和感を覚える指示だ。
 3度目の繰り返しをpで行なうのなら、4度目は高い音程で動きを与えていることからも、mfで始めて最高音でfに達し>しながら音程の下がる18小節頭をPとしたいところだ。そして2拍目からritだろう。


 マエストロはどうしてる?


 14小節からは固い音色で変化を持たせるが弱くは弾いておらず、16小節頭に強めのアクセントを与えている。そして4回目の繰り返しの冒頭は明らかに強く弾き始め、譜割も違うし18小節頭も強い(譜例)。



 さらに驚くべきことには、18小節2拍目のE音は弾かれていない。楽譜にはpとritの指示が付いてハッキリとそこにあるのに! とどめに19小節の最後のD音は休符にされ、チューニングに当てられている。もう、何がなにやら。ここまで来ると別の楽譜を使っているとしか思えない。


 確認したが1961年の正規録音と「レアビデオ」の演奏は同じ方向性を示している。なのでセゴビアは自分で改訂したとされるGPS版とは異なる楽譜を使っていると考えられる。さらに手元の放送録音では、前半7小節を繰り返してもいる。ご覧の通りこの楽譜には繰り返し記号はない。何が何やら。ちなみにマエストロの遺品の中には、陽の目を見ていない未発表の楽譜が多数発見されたそうなので、実際に演奏している版は、より直筆譜に近いものなのかも知れないが確認する術はない。
 ラッセルのトローバ作品集に『スペインの城』全曲が収録されているので確認してみたが、これも明らかに違う演奏に終始していた。なので『松のロマンス』には異なった版が複数あるということになる。


 さて、今回の演奏困難ポイントは譜例の17小節2拍から3拍にかけての指の入れ替えだ。それに3拍目のバスEを弾くとオクターブ下の解放弦E音も共鳴するので、消音したい所だ。その為に運指も変えたい。バスは解放D以外は1で押さえる。しかし困難なのは何と言っても混乱を極めているこの楽譜をどう解釈するかだ。このGPS版は本当にマエストロが目を通しているのだろうか? ここまでに指摘した以外にも小さな差異はいくつもあるし、そもそも楽譜の指示通り弾くことは不可能に近い。
 編集に名を連ねている Jim ferguson は、5小節のバスの「ズレ」を取り上げ、自分の扱った楽譜とセゴビアの正規録音との違いに首を傾げると共に「セゴビアは改善される必要性を感じた際は、修正することに抵抗しなかった」と書き記している。とするならばGPS版の方が直筆譜に忠実で、(直筆譜を知っているはずの)セゴビアは独自に「俺様版」を編んだと推測出来る。さらにカウンターメロディーを付加するなどあまりにも違いの大きいラッセルの録音は「編曲」された楽譜に基づいた演奏なのだろうか・・・?


 謎が謎を呼びながら次回につづく。