あ〜さんの音工房

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再掲載祭り=2014年02月12日分 その2

ボールひとつあれば

 

秋がカサカサと音を立てて

冬に吹かれる季節になっても

ぼくらは日暮れまで遊んでいた。

木枯らしなんて知るもんか!

 

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「帰ったらすぐね!」が合い言葉だった。

玄関にランドセルを投げ捨てると

自転車に飛び乗って遊びに出た。

何をするかは学校にいるうちに決めたけど

野球をする事が多かった。

人数が集まれば公園や原っぱでグローブはめたけど

2人だけの時だって野球は出来たんだ。

一人が投げる。

もう一人が打つ。

打ったら走る。

取ったらランナーめがけて投げる。

当たればアウト。

打って集合住宅の5階に当たればホームラン。

4階なら3塁打。

3階なら2塁打。

それ以下はヒット。

2人きりだからってキャッチボールじゃ味気ない。

これが自然と決まった

2人野球の公式ルールだ。

2人野球ではプラバットとカラーボールを使った。

その名の通りプラスチックのバットと

柔らかいゴムのボールを。

ピンクやグリーンもあったけど

視認性の一番高い黄色を使う事が多かった。

一個100円のボールは

ぼくたちの宝物だった。

これさえあればいつまででも遊んでいられるんだから。

だから行方不明になったら

いったん止めてみんなで探した。

見つかるまで。

 

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U字溝に溜まった落ち葉に埋もれて

ボールが落ちている。

今時の子供たちはボールなんか探さない。

近所でキャッチボールしている姿も見掛けるけれど

道具を蔑ろにしてたんじゃ上達は見込めないよ。

イチロー選手に聞いてみな。

 

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冬場、日暮れるのが早くなると

蛍光ボールの出番だ。

薄黄緑の光を放つそのボールさえあれば

門限ギリギリまで遊べた。

白い息を吐きながら

投げて、打って、走って。

それだけで十分だった。

心底楽しかった。

ボールひとつあれば一日中遊べた。

「また明日ね!」

カサカサにひび割れて

上手く開かない唇で挨拶を交わすと

みんな暖かな灯の中へ帰って行った。

微かな血の味と

切れそうな耳と

確かな充足感と。

今頃の季節になると思い出す

冬の記憶だ。

 

 

 

 

 

 

 

虹の始まり

 

年末に買い込んだ食料も底をついたんで

買い出しに行った。

ヒートテック・タイツと靴下履いて

カイロを肩に貼付けて

冬将軍に抗ってみたけれど、寒い。

今日は朝から一面の雪だ。

昨日済ませておけば良かったな

と、思いながら車を走らせていると

路面から雪が無くなって行く。

それどころか

家屋の屋根や山肌にも

痕跡が見当たらなくなっている。

この辺が北部と中部の境だとは知りつつも

これほどハッキリとそれを目の当たりにすると

驚くばかりだ。

本当に隣町との境で吹雪は晴れ

雪が無くなっている。

 

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ぼくらは雨を浴びながら考えていた。

なぜ晴れているのに雨が降るのかと。

少し前から「天気雨」が落ちて来ていた。

晴れと雨が同時に起きている。

「結構降って来たぞ」

「歩道橋の下で雨宿りしようぜ」

ぼくらは一息つきながら疑問をぶつけあった。

「なんで雨降ってるんだろうなぁ?雲無いのにさ」

確かに見上げてみても雲らしい雲は見当たらない。

「雨と晴れの境を探してみようよ!」

それは良い考えだ。

何か判るかも。

当時のぼくたちにはケータイDSも無かったけれど

自転車だけは標準装備されていた。

「明るい方に行けば雨がなくなるかもよ!」

降りしきる雨を受けながら

自転車をこぎ出したぼくらは

雨と晴れの境を探した。

「ここだ!ここから晴れてる!」

誰かが叫んだ。

確かに頬に雨は当たらない。

ぼくらは自転車を乗り捨てて空を見上げた。

「本当だ!こっから晴れてる」

「こっちは雨降ってるよ、ここが境だ!」

その時のぼくらが世界を手に入れた様な気分だった事は

言うまでもないだろう。

そして暫しの間成功体験に浸っていたぼくらの前に

それは現れた。

「虹だ!虹が出ている!」

大きくて、ハッキリとした七色の虹だった。

「そうだ、虹の始まりを探そうよ!」

森林公園の更にその先にありそうな

虹の始まりを目指して

ぼくらはペダルを踏みつけた。

「早くしないと消えちゃうよ!」

「いそげ~!」

それは、いくら走っても見つかるはずも無かったけれど

だれも走るのを止めはしなかった。

あの時のぼくらにはその権利があったんだ。

虹の始まりを目指す権利が。

 

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今日、天気の境をハッキリと目にしたので

あの日の事を思い出したんだ。

なにも虹の橋を渡りたかったって訳じゃないよ(笑)

虹って何処から始まっているのか見たかっただけ。

それにしてもあの頃は

ボールひとつあればいつまでも遊べたし

自転車さえあれば何処まででも行けたなぁ。

またいつか走り出したいもんだね。

もう少し現実的になっちゃうだろうけど(笑)

昔の事って

きっかけがあると

わりとハッキリと思い出せるもんだな。

また書くよ。

お楽しみに。

 

 

 

 

 

 

地中のチータ

 

姪っ子メイコがアリを飼い出した様だ。

「今日学校でアリをつかまえてきて今、猫にいじられないように家の中で飼ってる。もう巣を作ってる」

だとさ。

昆虫は散々飼ってみたけどアリは無かったな。

水槽に入れとくと巣の様子が見えて面白そうだけど・・・

 

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アリを喰らう蟻地獄なら捕獲を試みた事がある。

ジョウゴ状の巣を作り滑り落ちて来たアリを

クワガタのような大顎で噛み砕くという蟻地獄。

その姿を一目見ようと

ぼくと今村くんは奴らが潜んでいると噂される

集合住宅の縁の下へ向かった。

おお、あるぞあるぞ奴らが罠を仕掛けて手ぐすねを引いている。

早速アリを放して様子を見ていると

ジョウゴの底から薄いベージュ色のツノが顔を出した。

当時、我々の元には

蟻地獄にまつわる都市伝説が聞こえて来ていた。

「奴らは地中を時速100キロで走るので素手で捕らえた者はいない」

袖をまくり上げ、ザルを構えた今村くんが

初めての男にならんと集中力を高めている。

がんばれ今村くん!「地中のチーター」蟻地獄を捕獲せよ!!

今、正に奴がアリを毒牙にかけようとした、その時だ。

「いやあぁぁぁあっ!」

凄まじい気合いと共にザルが砂に突き刺さり素早く動いた。

そして一面の砂煙の中、今村くんが勝どきを上げた。

「とったどーっ!!」

蟻地獄はザルの中に収まっていた、あっさりと。

それは拍子抜けするほど小さく弱々しい姿をさらしていた。

ぼくらはどう見ても名前負けしている砂色の虫を

マジマジと見つめた。

「これが蟻地獄か・・・・・?」

「全然凶暴な感じしないね」

「ほんとに100キロで走るんだろうか?」

「地面に置いてみてよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

さっきまでの緊張感はどこへやら。

落胆した2人の次なる行動はただひとつ。

ぼくらはボールを握りしめて自転車に飛び乗った。

「ふたり野球しようよ!」

置いてけぼりの蟻地獄は胸を撫で下ろし

そそくさと巣作りを始めた事だろう。

「ったく、迷惑だっての!」

 

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アリ飼って面白いかなぁ?

しかも女子小学生が。

でも、飼ってみたいのなら仕方ない。

糧にしてくれると良いけどな。

生き物を飼うってそうゆう事だからさ。

間違っても巣穴に爆竹突っ込んで破裂させたりしちゃダメなんだぜ!

全員出て来てあわわ~ってなるからね。

とても迷惑なことだ。

虫絡みの話はまたの機会に書こう。

おたのしみに。