これからスイフトスポーツ ZC31S に乗るあなたへ
ひょんなことから手元に来たこの車について出来るだけ詳細に書き残しておこうと思う(正確さはその限りではない)。現車は平成19年・西暦2007年式で、グレードは「スポーツリミテッド」。スイフトスポーツの限定車で、基本スペックはスイスポに準じている。
MA16A型1600cc直列4気筒DOHCエンジンをフロントに横置き。サスペンションは前ストラット後トーションビーム。ブレーキは前後ディスク。タイヤサイズは195/50R16を215/40R17へ換装。これはインチアップした際に外周がほぼ同じになるサイズだ。当然車検も通る。ホイールは純正と同じだが、「リミテッド」にはガンメタリック塗装が施されている。言うまでもないが前輪駆動でミッションは5MT。LSDは入っておらず、外装色はブルーイッシュブラックパール3である。
前後バンパー、サイドアンダースポイラー、ルーフエンドスポイラーはスイスポ専用。ヘッドライトは十分に明るいHIDで、フォグランプを装備。革巻きステアリングにはチルト機構が付くが、テレスコープは無し。前席に本革・アルカンターラコンビのレカロシート2脚。運転席・助手席・サイドエアバッグを装備。エアコンはフルオート。窓はUVカットで、後席はプライバシーガラス。ドアハンドルはシルバーに塗装されている。なおセキュリティにはイモビライザーとアラームシステムが採用されている。
現車にはオプションとして、パナソニック『ストラーダ』ナビゲーション、ETCにUSBソケットなどを装着。そしてエンジンフードはエアインテーク付きカーボン製に、エアクリーナーは『HKS』、排気管には『GReddy』を、足回りのダンパーは『モンロー』のままだが『スズキスポーツ』のダウンスプリングへと換装されている。
それでは画像を交えて見て行こう。まずは外観から。
見た目に関しては好みが物を言うが、個人的には非常に優れていると思う。
初代スイフトスポーツは、軽ジャンルの『Kei』を拡幅した代物だった為に、デザイン的には破綻していた。また海外では『イグニススポーツ』と称されていた。
こちらが『Kei』。元は3ドアハッチバックのライトなSUVだったが、1年で市場のニーズにより5ドアの乗用車になってしまった。
二代目のZC31Sは当時のBセグメントのトレンドを取り入れたデザインで、欧州市場でも好感を持って受け入れられたようだ。
前後左右どこから見てもプレーンで無駄がないが、真横から見た時のまとまりの良さは秀逸で、軽自動車並みのオーバーハングの短さと固まり感が見るからに良さげだ。フルモデルチェンジした三台目もこのデザインの延長線上にあるので、いかに優れていたのかが伺える。
現行型は最良のスイスポであるとの評判が高いが(実際その通りなのでしょうが)エクステリアデザイン的には頂けない。全体的にはZC31Sからの流れを汲んでいるが、特に真横から見た時が問題だ。ドアが上下に幅広に感じられて鈍重だし、リア周りにごちゃごちゃ感があり、ずんぐりむっくりしていて、フロントも妙に間延びしていて、ハッチバックとしてのまとまりに欠ける。同じモチーフでも印象は大きく違う。
前記したようにデザインに関しては個人的な感想なので悪しからず。性能はZC33Sが最も良いに決まっているし、これが過剰な安全装備や電化のない最後のスイフトスポーツになる可能性が高い。
さて現車だが、外観で限定車だと解るのは「Sport」のバッジが金色で、ホイールがガンメタに塗装され、ドアハンドルが銀色なことくらいで、通常のスイスポと変わりはない。
フロントの灯火類はアッセンブリーで、精悍にデザインされている。上にウインカーランプ、下にヘッドライト、その横がスモールランプだ。
ハニカム形状のフロントグリルは上下に分割された大型であるが、エンブレムがあるべき上中央と上下運転席側1/4、左右フォグランプ周りはダミーである。
フロントに呼応してリアもバックランプ以外はアッセンブリーされていて、上からウインカーランプ、ブレーキランプ、反射板となっている。
ルーフエンドスポイラーにはハイマウントストップランプが組み込まれており、その端にはリアウインドー用のウオッシャーノズルが納まっている。またキャラクターラインなど一切ないプレーンなルーフの後ろ中央に、可倒式のアンテナが備わっているが、昔ながらの折りたたみ式アンテナより短いからか受信性能は今ひとつだ。
大型のバックランプは、左右出しのマフラーの外側にそれぞれ置かれている。マフラーの間にはフロントグリル同様ハニカムデザインが見られる。
給油口は助手席側後端にあり、リッドは円形である。
キーレスエントリーが採用されているが、キー自体はイマドキの物よりはひと回り大きいタイプで、リレーアタック対策などはされていようはずもない。
イグニッションはスイッチではなく、つまみを回転させて行なう。
続いて内装を見て行こう。
前席レカロシートは、グレーの革とアルカンターラのコンビで、ロゴとステッチが赤で差し色となっている。座面は体重60キロ程度では凹まないほどに張りがあり、それはシートバックも同じだ。形状はバケットだが、脇には余裕があり保持性は弱く肩の部分で補う感じだ。またニーサポートの張り出しは、乗り込みの邪魔になるほどではない。
後席も色合いや赤ステッチなど同様に仕上げられていて、ヘッドレストは上下に稼働するが、シートバックの角度は固定されている。
後部座席は前席同様固めで、ふわふわとはしていない。また車内は広々とはしてはおらずCピラーも太いが、後部ドアの窓も下まで開き切ることだし閉塞感はない。
後席は3人がけに設定されているが、大人2人乗り込む分には大きな問題なく利用出来そうだ。
身長172センチの大人が乗り込んでも膝には余裕があり、天井にも拳ひとつ弱は空間が出来る。
出自が普通乗用車であるので、荷室は充分な広さがある。
普段使いに何ら困ることはないが、残念ながらギターを載せるには幅が足らない。
積み込む際にはクラギ・エレギ共に後席に押し込むことになる。
逆に後部座席を荷室として使えるならば、5本は楽に載せることが出来るだろう。
後部座席肩口にあるレバーを引けば、ヘッドレストを取り外すことなく6:4で倒れるので、大抵の物は積載出来るだろうが、フラットにはならないので車中泊には向かなそうだ。
車内の上半分は明るいグレーで開放感に貢献している。また4枚のドアに対して一つずつハンドルが装備されているので何かと便利だ。そしてルームランプはドアを閉じても暫く点いたままのタイプになっている(球はLEDに交換されている模様)。
ステアリングは当時としては上手くデザインされている適度な太さの厚手の革巻きで、赤いステッチが施されている。
ペダルには滑り止めが付いている。基本普通車のハッチバックなので、運転姿勢は腰掛けスタイルで、エブリィやライトエースなどの仕事車と変わらない。
特殊なことは何も無いのでよく言えば気楽だが、特別感は全くない。また手足が最適な運転姿勢にに調節出来たとしても、アクセルペダルとフットレストの角度が合うことはなさそうだ。
メーターは三眼式で、中央のスピードメーターは220キロまで刻まれている。垂直指針の回転メーターは左に、燃料計と水温計が右に配置されている。各種警告灯は見ての通りだ。イマドキのマルチディスプレイは見当たらない。
外観同様シンプルで無駄の無いインパネ回りである。
運転席左側にフォグランプのスイッチがあり、その上の円形の吹き出し口には銀メッキの加飾がされている。開いているフラップは閉じることが出来、ぐるぐると回転させて向きを変えることも可能だ。
インパネ中央の上部奥には時計・外気温・瞬間燃費の表示窓があり、当時の最新装備と思われる。
インパネの上部にはエアコンの吹き出し口とハザードのスイッチがあり、その下がナビになっている。現在ではナビが優先されているが、この位置でも特に見難くも使い辛くもない。
その下がエアコンの操作パネルになっており、それぞれ見ての通りだが、左右2つのダイアルのクリック感には節度があり、上質である。その下の空間は小物入れだ。
シフトレバーの前には2つのドリンクホルダーがあるがホールド性に欠けており横Gがかかった時には傾いてしまい役に立たない。シフトブーツは赤いステッチの革または合皮で、ノブはオリジナルではない。左側にはアクセサリーソケットが一つあるので、USBソケットに変換すれば、小物入れやホルダーに配したスマホを充電可能だ。
パーキングブレーキにブーツは備わっておらず、ハンドルも剥き出しだが、ノブは銀メッキのパーツが奢られている。その後ろにはドリンクホルダーがあるが一つだけで、後部座席の快適性はあまり考えられていないようだ。
運転席側ドアには、電動格納ミラーとパワーウインドーの操作系がまとめられている。
ドアオープナーは銀メッキで、その横にはカーボン調の加飾パネルが奢られている。パワーウインドースイッチが設置された肘掛けは、革または合皮に赤ステッチで、高級感とまでは行かないが当時のこのクラスにしては悪くないだろう。
ドアの下側には縁にメッキで加飾されたスピーカーと、物入れが備わっている。
リアドアも同様で統一感をもたらしている。
リアにはスピーカーのみで、物入れはない。
内装は豪華でも快適でもないが車格相当であり、車内にリビングを求めなければ、後部座席に長時間納まっていない限り不満は出ない範囲ではないだろうか。
運転席に乗り込むと、まずはシートが固く感じる。ほとんど凹まないくらいだ。私の体型だと、腿と腰回りは問題ないが、脇は隙間が出来てサポートしてくれない。肩部分が張り出しているので、旋回時はここが頼りだ。
着座位置は低くはなく、乗り込む際も問題ない。ステアリングのチルト機構とシートの前後スライド、シートバックの角度で程よい運転姿勢は作れるが、アクセルペダルは角度が立ち過ぎで、加速も減速もしない巡航時に、右足首が曲がり過ぎる。反対にフットレストの角度は浅過ぎで、左足首は伸びがちだ。またサイズ自体が小さい。なので両足とも足首に負担がかかることになる。
基本普通乗用車なので視界は良い。Aピラーも太くはなく気にならない。車幅も広くないし気楽だが、実際に運転してみると、まず発進に注意が必要だ。クラッチのミートポイントがかなり前なので、エンジン回転をしっかり上げないうちに繋ぐとストールしてしまう。普段はそこまで気を使う必要はないが、複数人乗車や登坂の発進、ちょっとした段差などでは注意した方が良い。トルクが細いことも拍車をかけているが、それには吸排気チューンが裏目に出ているのではなかろうかと予想されるので、現車特有のことなのかもしれない。
『スズキスポーツ』のダウンスプリングも悪さをしているようで、乗り心地に「角のある突き上げ感」を伴っている。これにはインチアップしたタイヤの扁平率も関係していそうだ。バネ自体はそこまで固いとは思えないのだが、ダンパーの伸び縮みがゆっくりなのか、どうもバネとのバランスがとれていないように思う。個人的にはどうと言うことはない範囲だが、ミニバン馴れした人には不満でしかないだろう。
そして、一番疑問なのがステアリングの重さだ。長時間の走行では腕が痺れるほどなのだ。初めはこれもインチアップした幅広のタイヤが原因だと思っていたが、純正サイズのスタッドレスに交換しても(みなさんご存知のようにスタッドレスタイヤはステアリングが軽くなる)重いままなので、そのように躾けられているとしか思えないが、それにしても重過ぎで、女性には耐えられないのではなかろうか。
最小回転半径は5,2メートルあるので慣れが必要だ。車格からするとあり過ぎ。おそらく舵角の問題だろうが、切れ角が小さいのだ。前後のオーバーハングは短いが、小回りは利かない。ちなみに現行型ヴィッツは4,7メートルだ。50センチの差は少なくない。自宅や職場の駐車場が出入りしにくい人にはストレスを与えることだろう。
峠やワインディングで高回転で走行すると、この車は俄然生き生きとする。やはりNAエンジンは高回転を駆使してこそだ。4,000回転を越えてからのフィールは官能的と言えないこともないが、大トルクで引っ張って行くのではなく、アクセル開度に速度が比例するタイプの加速だ。だが、高回転を使えるのは1速2速限りで、3速以上では3,000回転以下で走ることがほとんどになるので、日常的には細いトルクと、もっさりとした加速しか味わえない。ZC31Sのスペック表には「最高出力125ps/6,800rpm」と書かれているが、これは6,800回転回さなければ125馬力出ませんよ、と言うことを表している。すなわち6,800回転以下では常に125馬力以下なのである。最大トルクも15,1kg/4,800rpmなので、常用する3,000 回転以下では当然非力に感じることになる。現車に施されている吸排気チューンも、たとえ馬力トルクともに加算されているとしても、高回転域で「効く」のが一般的であるので、常に高回転で走る環境に無い場合はデチューンされていると考えた方が良い。
かなりクロスしたミッションは楽しい走りよりも燃費に貢献することだろう。燃費はカタログ値で14.6だが、実走行でも早々に5速に入れて、そろっと走っていれば15-16は出せる(渋滞に巻き込まれない環境なら)。最高で18前後は出ているので、エコカーでもないのに燃費は優秀だが、回して走るなら10キロに届くことは無いだろう。また左右に遊びが大きいシフトフィールは上々とは言えないが、これは経年で劣化した可能性を否定出来ない。
この車の美点は旋回にある。ひと昔前の前輪駆動車では考えられないほどよく曲がる。あまり傾くことなく「くるん」と旋回するが、オーバーステアではなく、前輪のグリップが先に抜ける。後輪は落ち着いており、サスペンションがトーションビームとは思えないなかなかの仕事ぶりだ。大雑把に言ってホンダのタイプR以前の前輪駆動車は、付いているのかいないのかさえ解らないほど後輪は仕事をしていなかったが、この車は感覚的に6.5対3.5くらいの割合の仕事ぶりだ。また「くるん」の旋回は、前が重い(フロントの車軸より前にエンジンが置かれている)のも一因だろうと思う。また軽さも味方して大いに減速するが、踏み初めで大きく効いてしまい扱い辛い。まるでスイッチのようなタイプのブレーキフィールなので、微妙に減速したい場合や、減速に合わせたシフトダウンのタイミングが(ギアがクロスしていることもあって)掴み辛い。個人的には馴れ(練習)が必要だった。さらに残念なことにはオープンデフなので、峠の九十九折れでは低速でも内輪が空転してしまう。長く乗るつもりならLSDは必須だろう。てか初めから付けといてくれよ。スポーツグレードなんだからさ。
この国の自動車メーカーは国内市場を見限っている。留まることを知らない人口の激減、それに比例した運転免許所有者の減少がそうさせているので納得せざるを得ないが、残念なことだ。メーカーが「運転を楽しめる」としている車のほとんどが「スーパーな」物になってしまい、少なくとも日本の峠やワインディング、延いては街中には適さない馬力とサイズ、そして何よりとても手の出せない価格の車しかないのが現状だ。
価格的にはなんとかなりそうなBRZ/86でさえ全幅は1,775mmもある。
それはホンダのSUV『ヴェゼル』より広いのだ。人や荷物を積む車じゃなかろうに。
なので運転を楽しみたい層が「スーパーな」ではなく、日本の道路事情に適した、尚かつ普段使い出来る実用性を兼ね備えた車の選択肢は限りなく少ない。中古のZC31S、ZC32Sは、同じく中古で高値を保っているタイプRと共に前輪駆動車としては最良の選択肢であり、現行のZC33Sは新車で手に入る唯一の選択肢であると言って良いだろう。「小型軽量で手に余らない性能」と括るならば、あとは後輪駆動のマツダロードスターくらいしかないのだ。
現行でFFのシビックタイプRは、全幅1,875mmで価格は450万円(税込)。ホンダ「プラチナ期」の名車NSXの全幅は1,810mm。なんとシビックの方が65ミリも幅が広いのだ。何を基準に割り出した車幅なのだろか? 安全性? 居住性? 幅を増やすのは勝手だが、道路の幅が広がることはない。むしろ歩道や自転車道の増設で狭くなっているくらいなのだが。
今しきりに宣伝してるFRのスープラは、全幅1,865mmで価格は最下位グレードで約540万円(北米価格)。
MRの現行型NSXに至っては、全幅1,940mmで価格は2,370万円(税込)。明らかに海外の富裕層がターゲットだ。3,5リットルV6エンジンの他にモーターを3基搭載し、システム最高出力は581馬力。そのおかげで車重は1,800キロ。これは(ほぼ)NAロードスター2台分の重さだ。ホンダに訊ねたいが、この車で日本のどこを走れと言うのか? NSXを名乗るのが不思議な代物だ。
底値のZC31Sや球数豊富なZC32Sは、運転を楽しみたい人には良い選択になるだろう。ただ今後を考えるならZC33Sをお薦めしたい。なぜなら現行型が最後の「楽しい車」になってしまう可能性があるからだ。次期型ZC34Sは「環境性能の為」として評判の良いエンジンが変更され、ハイブリッド化されるかもしれない。ZC33Sが最後の純粋なガソリンエンジン車になるかもしれないのだ。今はまだオプションの安全装備が標準化される可能性も充分ある。必然的に価格も上昇するし車重も嵩むことになる。可能ならばZC33Sを新車で買って出来るだけ長く乗り続けるのが得策と考えるがどうだろう。
私も小型軽量で過剰な安全装備の付いていない「楽しい車」を新車で購入しようと画策中だ。それに出来るだけ長く乗りたい。販売店は5年ごとの買い替えを奨めるだろうが、5年後には同じ車は無くなっているのだからそんなこと出来ない。今が「楽しい車」を新車で手に出来る最後の機会ではないのか。
なんやかんやと書き連ねて来たが、ZC31Sが「楽しい車」であることは間違いない。興味があるあなたには是非愛車にしてみることを薦めたいが、中古車は1台1台状態が違うのだから自らの目で確かめることを忘れずに。吸排気チューン済みの奴はご注意を。この記事が参考になるかならないかは、あなた次第です。
鈴菌感染者さんコメントありがとうございました。出かけていたので30日まで知らずにいました。
Z31に乗っていたのは短い間でしたが、書き残しておいて良かったです。この記事を上げてからアクセスの半数以上がこれになっています。みなさんの参考になっているようで嬉しく思っています。
鈴菌感染者さんが楽しいカーライフが送れますように願っています。