あ〜さんの音工房

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ラウドネスがスピッツだったかも知れない話

 マイケル・シェンカーの現在進行形のプロジェクト『マイケル・シェンカー・フェスト』の新作が案内されている。結成後毎年ツアーしていたことからも明らかだったが、1回限りの祭りではなかったのだ。このエモい企画の2作目のアルバムが聴けるとは、この上ない福音だ。


MICHAEL SCHENKER FEST - Rock Steady (OFFICIAL VIDEO)

 この曲がニューアルバム『レヴェレイション』の1曲目になるそうだが、かなりアメリカンなテイストで、筋肉質な曲が多かった前作とは大分異なりそうだ。少なくともよりバラエティに富んだ13曲(+ボーナス3曲)になるのだろう。そしてこのボーナスの内1曲は新曲で(他の2曲は既成曲のライブ)ラウドネスのギタリスト俺たちの高崎晃が参加している。これは朗報、てか大事件だ。

 みなさんご存知のように高崎氏はマイケル様信者だ。それもとびっきりの。TO=トップヲタと呼んで差し支えないだろう。私が忘れようにも忘れられないのがヤングギター誌1981年10月号に掲載された「マイケル・シェンカーvs高崎晃 スペシャル対談」だ。まずは憧れのマイケル様の隣で、満面の笑みのタッカンをご覧ください。

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 レイジー解散後、新たなバンドを結成していた(後のラウドネス)高崎氏は、この時デビューアルバムのラフミックス5曲を持参し、マイケル様に聴いてもらっている。「ラッシュやヴァン・ヘイレンを彷彿とさせるね」とのお言葉に対し高崎氏は「両方とも大好きなんです。でも、一番好きなのは、あなたですっ♡」と愛の告白をしている。その場の関係者は薄ら笑いだったに違いないが、わかるよ、タッカン。

 続いて真っ赤なランダムスター(初期ラウドネスの象徴となったエレギのこと。上の写真で見切れている)を取り出すとマイケル様に差し出し感想をおねだりしている。「中々いい出来だね。けどエレギの良し悪しはアンプを通さなきゃ解らないよね」と至極真っ当に答えるマイケル様。高崎氏はマイケル様の指紋と手汗に塗れたそれを、はぁはぁしながらそっとケースに仕舞い込んだそうだ。その場の関係者はドン引きだったに違いないが、わかるよ、タッカン。

 そして高崎氏は最後に、「あのぅ、僕らのバンド、まだ名前が決まってないんですぅ。名付け親になってもらえませんかぁ? おなしゃす!」と懇願した。「そーゆーの苦手なんだよね」と困惑するマイケル様。「そこをなんとか! さっきのテープ聴いて何も感じなかったんですかぁ。ひどぉーい」と食い下がる高崎氏。「その手のことはメンバーまかせだし、それに俺、ドイツ人だからさ、日本語はもちろん英語も語彙不足なんだよね」それに対し高崎氏はこう応えた。「ドイツ語でも構いません!」

 さて、本題だ。もしも、この機会にマイケル様が「尖った音楽やってんだからさぁ 「SPITZ」なんてどうかな」と提案したら、「スピッツ? ドイツ語で尖ったって意味なの? かっけー! それにします! あざっす!」と喜び勇んだ高崎氏は、バンド名を「スピッツ」としてデビューしていたかもしれない。すると同業者で現在「スピッツ」と名乗って活動している、あの「スピッツ」は「スピッツ」と言う名では存在し得なかったことになる。みなさんご存知のように、あの「スピッツ」はドイツ語の「SPITZ」に由来しているのだから・・・こんな可能性が1981年の盛夏に、少なからずあったのだ。

 『伊藤政則のロックTV』の中でマイケル様は「日本盤に必要になるボーナストラックだが、今回はポジティブに考えて日本人のゲストを招いた。ギタリストのアキラだ」と話している。なんと今回の件はマイケル様直々の出演依頼だったようだ。連絡を受けた高崎氏は「えぇぇ! うそーん。どっきり? ねえ、これどっきりなんやろ? カメラどこにあるん?」と言ったに違いない(妄想)。


【伊藤政則】『レヴェレイション』リリース記念公開収録【ロックTV!】

  そして、この伊藤政則氏のネット番組出演時のマイケル様の発言は、2人が同時にスタジオに居た可能性を示唆している。高崎氏はマイケル様の録音現場に行ったのではないのか? だとしたら「ひゃっはー」状態で演奏したはずだから、鳥肌ライズアップ級のとんでもない名演が期待出来る。これは(たとえデータとメールのやり取りだけだったにせよ)マイケル様信者の高崎氏にとっては御前演奏そのものであり、最高のモチベーションであったことは論を持たない。

 あれから40年。特別な邦人ギタリストは何人かいるにせよ、マイケル様のアルバムに参加出来たのは俺たちのTO、高崎晃だけだ。私たち同様にマイケル様の名演を聴き、演奏し、そして涙してきたタッカンが上り詰めたのだ。マイケル様信者のひとりとして、感涙を禁じ得ない。この秋、我々は歴史の目撃者になる。めでたし、めでたし。