あ〜さんの音工房

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鳴り出す不思議

 

 野良ギタリストには分不相応でお馴染みの一流ギター製作家中野潤氏作(2011)レイズドフィンガーボード仕様(以下レイちゃん)の音色に変化が起きている。理由はいくつか考えられる。


 ギターは木工品なので、工作の過程からその問題は起こる。まずは「応力歪み」だ。裁断し曲げることで応力が発生し、材を歪ませ変形させている。平たく言えば、材を引っぱり不自然な格好をさせているのだ。なのでその状態に材が馴染むまで時間がかかる。新築の木造住宅がギシギシパキパキ鳴るのもそれが原因だがいずれは解消する。ギターも同じだ。
 次に巷で多く語られる「経年変化」だ。これは材が枯れる訳ではなく、水分以外の糖や樹脂などが固まる過程で主に高音域が変化し、全体のバランスが変わって行くことを指している。これは少しずつ延々と続く。
 だが上記の2つは今回の件には関係が浅いと思われる。レイちゃんは2011年製。6年経てばこれらはかなり進行しているだろうからだ。今回問題だったのは弦を張らずに(状態から視て試奏程度しかしていなかったか、全く弾かれていないデッドストックだったはず)いたことだ。長年弦の張力と無縁の状態にあった為に馴染むのに時間がかかったのだと思う。弦を張り張力を加えると応力が発生し、ギターは歪む。レイちゃんは「あ、この状態で仕事するのね」と気がついたので本来の力を発揮し出したのではないだろうか。まろやかな音色に大きく舵を切っているのだ。新品の(それに準じた)クラッシックギターを手にしたのは初めてなので、驚くほどの変化に戸惑うばかりだ。


 ギターを長期間保存する場合、製作家やお店屋さんは例外無く弦をたるたるの状態まで緩めるか外してしまう。張力でネックに負担をかけるのを嫌うからだ(歪むのはネックだけではなく全体ですが)。だがこれは大いに疑問で、弦を張った状態がデフォルトであるべき楽器に張力をかけないのは逆によろしくないのではないだろうか。ピアノの弦を緩めますか? 私は数十本のエレキギターを数十年弦を張った状態で保存しているが問題が起きた個体は皆無だ。逆に分解するなどして弦を張っていなかった物に問題が起きている。ギターは工場から出荷する際にA=440HZで調弦しその状態で問題がないか検品して、そのまま弦の張力を緩める事はない。少なくとも量産品はアコギ、エレギを問わずそうしている(ベースギター含む)。そして問題なく我々の手元に届くのだ。


 スケールが標準より長いこともあってレイちゃんをどう扱うか悩んだが、現状は常に張りっぱなしにしている。ただし調弦は半音から全音下げている。張りは緩い方がサスティンが増すし、左手の押さえる力も少なくて済む。緩くても右手の弾弦に問題ないが、エレギの場合など弦をはじいた後の戻りが遅くなるので張りが強くないと速く弾けないと言う奏者もいる(一流ギタリスト故ゲイリー・ムーア談)。
 他の楽器とアンサンブルする予定も無いし、丁度バッハに取り組んでいることもあっての半音下げだが、このまま続けようと思う。それよりも、このところ湿度が馬鹿に低いので、乾燥し過ぎないようにしないと。頼んであるケースが待ち遠しいね。


 音は不思議だよ。なので気をつけないとオカルトに陥ってしまう。今回の件も、じゃないのか? てだけで、本当の所は解らない。おおよそ合っているのか? まるで見当違いなのか? ま、良い方向の変化なのでどのような理由でも構わないんだけどさ。レイちゃんが成長を始めたぞ。共に歩みたいものだ。


シャコンヌ』への挑戦は絶賛継続中だ。諦めないぞ。