自作小説
セラへリーア通り32番地の邂逅 「お仕事中失礼します・・・」 開け放してある工房の入り口から顔を覗かせると、マルチネス夫人はギター作りに声をかけた。側板を削いでいた男は、振り返ると声の方を見やった。 大抵はむさ苦しい男たちが屯しているアントニオ…
廃線列車 夏祭りの終わった深夜二時、丑三つ時にその列車は「出る」と噂されていた。その日、その時、廃線跡に集えば、自分が一番大切に思っている故人に会えるというのだ。誰々に会いたい、という指定は出来ない。会うべき人が一人だけ、その列車に乗って来…
アドリブ 1 困った、どうしよう。 村井奏太は楽屋で頭を抱えていた。人は困難に遭うと本当に頭を抱えるのだと初めて知った。 音楽評論家伊藤春大がオールジャンルで独奏者を招集し「ソリストたちの競演」と題してこの夏にチャリティ野外フェスを企画した。…
「お仕事中失礼します・・・」 開け放してある工房の入り口から顔を覗かせると、マルチネス夫人はギター作りに声をかけた。側板を削いでいた男は、振り返ると声の方を見やった。 大抵はむさ苦しい男たちが屯しているアントニオ・デ・トーレスの工房に、女性…
廃線列車 夏祭りの終わった深夜二時、丑三つ時にその列車は「出る」と噂されていた。その日、その時、廃線跡に集えば、自分が一番大切に思っている故人に会えるというのだ。誰々に会いたい、という指定は出来ない。会うべき人が一人だけ、その列車に乗って来…
1 困った、どうしよう。 村井奏太は楽屋で頭を抱えていた。人は困難に遭うと本当に頭を抱えるのだと初めて知った。 音楽評論家伊藤春大がオールジャンルで独奏者を招集し「ソリストたちの競演」と題してこの夏にチャリティ野外フェスを企画した。クラシック…