あ〜さんの音工房

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思い込みあれこれ

 

 長いこと世界一ビールを飲んでいるのってドイツの人たちだろうな、と思い込んでいた。そうではないのだと知ったのは2010年頃のことだ。当時の1人あたりのビールの年間消費量は、第1位チェコ、第2位アイルランド、第3位がドイツなのだった。我々日本人がビールと聞いてドイツを連想してしまうのは、やはり国内でビールを生産する際にドイツから教えを請うたのが大きいのだろう。
 では今はどうなっているのかと調べてみたら、チェコの1位は不動のようだがアイルランドは姿を消し、ドイツを隣国オーストリアが追い抜いたようだったり、南アフリカナミビアやインド洋の孤島セーシェルがトップ3に入っていたりする統計もあって、大いに様変わりしていた。ちなみに(個人ではなく)国別の消費量は中国が他を圧倒している。


 こちらに越して来てからしばらくは、季節の良い折に登山をしていた。ある時、魚止めの滝上で山椒魚の子に出会ったことがあった。初めはイモリかヤモリの子かと思いよくよく見てみると、どうやら山椒魚の子のようだった。流石は天然記念物、こんな山奥の清流にしか住まわないのかと思う一方、こんな希少生物でもかつては至る所で見ることができたのかなどと思ったものだ。
 ところが近年その山椒魚が京都の鴨川で大量に捕獲されているというのだ。これには驚いた。ひっそりと暮らしているものだとばかり思い込んでいた山椒魚が、天下の観光地京都でその姿を晒していたとは。それどころか『京都水族館』に引き取られて客寄せに使われていると言うじゃないか。ぬいぐるみにもなって大好評なのだとか。鴨川で捕獲された多くは外来種・交雑種だそうだが、なんともはや言葉もない。


 我々は鼓膜で音を聴いていると思い込んでいるが、鼓膜が振動しなくても音は聴こえる。
 空気の振動が外耳を潜り、鼓膜に伝わる。鼓膜が耳小骨を振動させて、その情報は内耳に向かう。内耳はそれを電気信号に変換し、神経を通して脳に伝える。これが音が聴こえる仕組みだが、これは気導音を聴いているということになる。
 しかし外耳の入り口(耳の穴)を塞いで鼓膜が振動しなくても、耳小骨が揺れさえすれば内耳はそれを信号化し脳へ伝達可能なのだ。これは耳の周囲の骨や歯などを介して頭蓋骨を揺らせば起こすことが出来る。耳を塞いでも喋れば自分の声が聞こえるのはこの骨導音の為だし、それを録音した際に違和感を覚えるのは、自らは聴いている骨導音が全く加算されていないからだ。
 この骨導音は空気が振動している限り常に起きているので、例えばコンサートホールの同じ席でA氏とB氏が同時に演奏を聴くことが出来たとしても、その2人に聴こえている音は違っている。頭蓋を初めとする骨の大きさや太さ、筋肉や脂肪の厚みによって骨導音は変わるのだし、気導音も耳たぶの厚さ大きさ立ち具合によって大きく変わる。特に違いをもたらすのは耳たぶの立ち方の違いで、寝ている人の音場感は広いが、立っている人は狭い。反対に立っていると細かい音は聴こえやすいが、高音域をより多く拾うことになるので、耳たぶが寝ている人に比べると同じ音を聴いていても低音域が少ないバランスに聴こえる。このことは自分の耳を立てたり寝かせたりしてみれば誰にでも実感出来ることだ。
 このように音は鼓膜だけで聴いているわけではないし、同じ音でも聴こえ方は人それぞれ千差万別だ。このことを考慮せずにいると、趣味のオーディオは泥沼に嵌る。だからこそ他でもない自分自身が、今こそ過去最高の音質だと自画自賛出来ることが肝心なのだ。自身で音質の官能評価が出来ないと、オーディオ機器で音楽を聴いている意味すらないのだから。


 寒い日々が続いているが、こればかりは思い込みではなさそうだ。