テレビは動画のひとつです
映画『クリード チャンプを継ぐ男』で、ロッキーが作った練習メニューをアドニスがスマホで撮影する場面がある。紙に書かれたメニューはいらないと言うアドニスは「スマホ無くしたらどうする?」と問うロッキーに「クラウドに保存したから大丈夫」だと答える。ロッキーは「クラウドってなんだ? 雲がどうかしたのか?」と空を見上げるのだった。
これはロッキーが「オールドマン」であることを端的に表したエピソードで、適度にコミカルでもあり秀逸だ。現実でも我々おじさんたちは、コンピューター・IT関連などの物事を初めとして、世間に置いて行かれていることが多々ある。今回は、今年最も驚いた事を書きたいと思う。
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ラジオ番組で若者に街角インタビューしているのを聴いていた時のことだった。どんなメディアに関心があるか、との問いにある女の子が衝撃的なことを口にしていた。「あ、テレビですかぁ。あんまり観ないんですよね。勝手に始まっちゃうし。だってぇ、楽しみにしている番組とか初めからちゃんと観たいじゃないですかぁ。だから時間のある時にサーバーに行って観てまーす」。・・・テレビは勝手に始まってしまう? 確かにテレビには時間割があって、決められた時間に始まるものだ。なので我々が子供の時分、まだビデオレコーダーが民間に普及していなかった時には、誰もが万難を排してテレビの前で待機した。『8時だョ!全員集合』は土曜の20時から。『ザ・ベストテン』は木曜の21時から。観る側が放送時間に合わせていた。だが今は違うのだ。それは『You Tube』かも知れないし『Hulu』かも知れないが、彼らはパソコンやタブレット、スマホでサーバーにアクセスして、テレビ用に制作された番組を(さらには映画までもを)「観たい時に」観ているのだ。
動画を観る オールドマン=テレビの前で、リアルタイム放送かレコーダーに録画してある番組、もしくはDVDなどのディスクを観る
ニュータイプ=出先の空き時間に、スマホで『You Tube』などの無料配信サービスまたは契約しているオンデマンドのサーバーにアクセスして観る
少し前には、一人暮らしの若者の部屋にはパソコンが必需品で、それでテレビを含めたメディアにアクセスしていたものだが、どうやら今はスマホで事が済むようだ。考えてみれば、スマホなどと言うハイテク機器は、我々が子供の頃には『ウルトラ警備隊』しか持っていなかった夢のツールだ。それがいま現実に世の中にある。しかも特権階級や富裕層だけではなく一般に普及しているのだ。驚くべき事だ。
そして今や「テレビ番組」は「素人の個人配信」と同列に置かれているのだ。若者達にとってはプロが作り上げた番組もユーチューバーの「やってみた動画」も同じ動画の選択肢のひとつに過ぎない。なんなら「勝手に始まる」テレビは敬遠されてさえいるのだ。これは衝撃的な事実だ。
テレビ屋さん達は、この現実をどう捉えているのだろう。まだテレビにやれることはあると息巻いているのか? もうダメだとさじを投げているのか? 毎日2時間3時間の「水増しバラエティー」を垂れ流しているのだから後者だと思わざるを得ないが、いずれにしてもテレビ番組は「動画のひとつ」という立ち位置から逃れることは出来ないだろう。そしていつか、そう遠くない未来に「テレビ終了のお知らせ」を我々はスマホで知る事になるのかもしれない。