あ〜さんの音工房

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タレガが編曲したショパンのワルツはこんなだった

 


 タレガがギターに移したショパンのワルツ作品34-2に取り組んでいる。ギターの性能を最も発揮出来るホ短調に移調されている。


 曲の構成は 序奏-A-B-C-D-A-B-C-D-序奏-E-序奏(結尾)となっている。3度現れる序奏は重々しく物憂げだが、トリルとA弦でのスライドによる跳躍によって救われている印象だ。
 A部は冒頭からダイナミックな跳躍音程で、ハイポジションが多く、ワルツのリズム音形を維持出来ない場面が多い。技術的には高音でメロディーを歌わせることが肝所となり、これまでの成果が試される。部分的にオクターブ下げている編曲もあるようだ。
 B部は一転溌剌とした楽想が現れるが、そのため演奏は指板上を行ったり来たりで忙しい。
 C部はホ長調で落ち着いたワルツらしい展開。最後の高音域でのスケールは華やかに決めたい。
 D部はそのC部の同主調ホ短調に転じて同じ音形が反復される。この同じ音形を調を変えて表す手法はタレガの『アラビア風奇想曲』でも採用されているが、暗譜が困難で間違いが起きやすい。時間をかけて弾き込みたい。そしてC部のそれを短調で踏襲するハイポジションでのスケールは、レイズドフィンガーボードを採用するギターの見せ場にもなるだろう。破綻無く鳴らし切りたいところだ。このあとA-B-C-Dを繰り返すが、それぞれ何かしらの変化があっても良いだろう。
 2度目の序奏のあとE部に入る。一部低い音が足りずに音形を変えているがそこはタレガ、違和感はない。旋律が低音に移り親指で弾弦することになるが「dolce」の指示に従い柔らかで香り高く演奏したいものだ(出来ることならですが)。それに「松葉」を鑑みて、ダイナミックかつ繊細に緩急強弱を付けたい(これも出来る事ならですが)。後半左手は常時セーハで押さえ旋律を追う際にはストレッチすることになるが、雰囲気を壊す事なく乗り切りたいところだ。
 その後3度目の序奏を奏でて曲は閉じられる。


 このように諸々考えて演奏に望むわけだが、そこは野良ギタリスト。設定した全ての物事を実施出来る訳ではない。なので出来るだけ近づける努力をしつつ落とし所を探すのだ。この曲は旋律と伴奏で成り立っているので、複雑な内容ではないのだが、込められた感情を表すのは簡単ではない。技術的には初心者は拒むにせよ私のような万年初心者でも、部分的に自身に合わせて調整出来ればなんとか演奏可能な範囲だろう。


 ピアノに疎い私は、ショパンの音楽と言うと音数が多く複雑で陰鬱な心象を持っていたが(ソナタなど聴いていられないほどだ)、シンプルなワルツでこれほどの感情表現を可能としているのは流石としか言いようがない。正にピアノの詩人の名にふさわしい傑作で、ショパンに憧憬の念を抱いていた我らがタレガが自分の楽器に移したのも当然と言える。



 3度目の挑戦だ。今度こそ弾き切りたい。