あ〜さんの音工房

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『ソナチネ』への道 その1

 初めて聴いたのはセゴビアの演奏だったと思う。それは一陣の風のような、颯爽とした弾きっぷりだった。なんて素敵なギターソナタなのかと、書き残してくれた作曲家に感謝を覚えた。

 そして稲垣稔氏のファーストアルバムがセカンドインパクトとなった。そのタイトルも『ソナチネ』で、しかも1曲目に置かれていることからも、稲垣氏がどれほどこの曲に愛着を、そしてその演奏に自信を持っていたのかは明らかだ。だれの物でもない稲垣氏一流の音楽は、私を魅了した。以来幾人もの演奏で聴いて来たこの曲だが、数年前まで自分で弾いてみたいと言う思いは、封印されたままになっていた。

 それは私とは何の関わりもないギターサークルの発表会だった。女流奏者がこの曲に挑んでいた。だがこの曲を弾くには技術的に問題があり、舞台に上げるには準備不足であることは明らかだった。だが瑕疵だらけのその演奏に、客席の私は少なからぬ衝撃を受けていた。ひとつはこの曲に果敢に挑戦しているアマチュアが目の前に居るという事実に。ひとつはこの曲を弾いてみたいという欲求を失っていた自分に。

 あと10年演奏可能な体調を保てると仮定すると、丸1年かけて大曲に取り組んだ場合、10曲がリミットとなる。1年置きだとすると5曲。その内の1曲に『ソナチネ』を組まないなど有り得ない。この曲こそ野良ギタリストの欲求を満たしてくれる1曲なのだから。

 アマチュアとは言え器楽奏者たるもの「ソナタ」を弾いてみたいと思うのは当然だろう。古典派以降の最重要形式である「ソナタ形式」は、提示部=展開部=再現部の3部形式を基本に、より複雑に深化させたものであるが、それの短く複雑過ぎないものが「ソナチネ」と呼ばれる。ギターソナタの大作はいくつもあるが、とても手に負えないものばかり。ギターの為に書かれた「ソナチネ」で、尚かつ魅力溢れる作品は、トローバ作の『ソナチネ』の他無い。

 

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 新井伴典氏校訂のこの楽譜。いつ手に入れた物なのか全く覚えていないが、おそらく現代ギター社通販部からの購入だと思われる。かつて弾く気はあったのだ。しかもこの様にコピーして楽章ごとに束ねてあった。

 

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 手間が省けてありがたい事だが、なぜこの時点で取り組まなかったのか? 理由は2つあったと思われる。

 曲を聴けばおおよその難易度は解るが、第3楽章が演奏困難であることで腰が引けたのだろう。まず連打の粒を揃えるのが難しい。モチーフとして多用されている4つの同音連打が厄介なのは明らかだ。そしてアルペジオ。3つのパターンを弾きこなさなければならないのも二の足を踏んだ要因だろう。なにせアルペジオした事がなかったのだから。それに第3楽章はアレグロの指示なので、ある程度の速度での演奏が求められる。

 もうひとつは第2楽章が変則チューニングだったからだろう。この事には楽譜を見て初めて気付いたはずだ。変則と言っても6弦を全音落とすだけの「ドロップD」なのだが、第2楽章でそれをすると「落とした」第2楽章と「戻した」第3楽章でわずかにではあるがチューニングが狂ってしまう。それをどう処理するか? 演奏の合間に直すのか。無視するのか。これは野良ギタリストにとっては、悩ましく厄介な問題なのだ。

 昨年10月頃から始めているので、すでに第3楽章の暗譜を終えたところだが、やはり調整は必要だった。左手の押さえが困難な箇所では、和音の構成音を省く、または変更する。和声の流れを妨げない範囲でこれらは行なわざるを得なかった。そしてどうにもならないのがアルペジオだ。これは並べ替える訳に行かないので、ひたすら練習あるのみ。右手を痛めない程度に日々努力しなければならないだろう。3楽章までに疲弊している中、最大の困難に見舞われるので、アルペジオが鬼門となることは間違いない。1小節ごとに移動を繰り返す左手の押さえも困難で、まともに音が出ていないのが現状だ。なんとかしなければならないぞ。

 

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 来月からは第1楽章の暗譜を始める。また調整が必要かと思うが、3楽章ほどの困難は無いはず。弾けないアルペジオの練習も同時進行しながらひとつひとつ乗り越えて行こう。急がず、焦らず、じっくりと。