あ〜さんの音工房

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ラジオと読書

  

 午前零時からTFM『ジェットストリーム』を聴くのが習慣になって久しい。


http://www.tfm.co.jp/jetstream/


 この番組は、機長・大沢たかお氏の「ジェットストリーム」と4度繰り返すコールで始まるが、なんで4回なのだろうと不思議に思っていた。社名や商品名を連呼するのはコマーシャルでは行われていた手法だが、4回もタイトルコールする番組など見たことも聞いたこともなかったので、初めの頃は腑に落ちなかったのだが、今ではこのジェットエンジンの轟音に乗せて(低い周波数はスカスカですが)の4回コールは、曲の始まりを告げるトランペット的な役割を果たしているのだと思うに至り納得している(マーラーの5番やチャイコフスキーの4番の交響曲のように)。
 基本的にインストゥルメンタルのジャズナンバーやイージーリスニングが、この時間帯に合った落ち着いた時間の流れを形作っている『ジェットストリーム』だが、ギターでの演奏がフィーチャーされることもある。その場合はポピュラーソングの編曲を独奏していることが多いが、クラシックギタリスト以外のガットギターでの演奏には首を傾げることもしばしばだ。雑なこと甚だしいからだ。使用楽器も怪しげだし、録音もエフェクトが丸出し。だが、何故だかこの時間に聴くと大して気にならなかったりする。
 心地よいのはジャズトリオで、低い周波数さえ入っていればブンブンと唸るベースが堪らなく良い。どうも高い方でシャカシャカやられるのは、深夜には合わないということらしい。
 番組のテーマ曲として長年使用されている『ミスター・ロンリー』は、様々に編曲されて来たが、現在エンディングで聴ける版が素晴らしく、番組が終わるのさえ楽しみの一つになっている。冒頭、チェロの深々とした独奏から開始され、やがてピアノが寄り添いチェロ・ソナタの体で進行するが、それまでチェロで奏でられていた主題がピアノに受け渡されるその瞬間が、なんとも言えない美しさなのだ。そしてヴァイオリンの合奏から、チェロに戻って来る瞬間にも息をのむ。
 よろしくない録音が多かった日も、既知の曲ばかりで新しい出会いがなかった日も、演奏・録音共に出色なエンディングには、夜な夜な痺れている。


 そして番組終了までが読書の時間でもある。



 いま読み進めているのは上の2冊で、カバーを外してあるのは星野博美著『のりたまと煙突』。カバーしてあるのは小川洋子著『猫を抱いて象と泳ぐ』だ。どちらかだけの時も両方少しづつの時もあり、気分に任せて気ままに楽しんでいる。
 以前読んだ『やさしい訴え』に琴線を震わされた小川氏の『猫〜』は「嘘から出た真」系の作品で、取り巻く状況はまるで絵空事なのに、登場人物たちは実に生き生きと描かれているという少年の成長物語。独特の浮遊感が好ましい長編だ。
 すでに主人公はいくつかの出会いと別れを体験して来ているのだが、さてこの物語、どこに着地するのかまるで見えてこない。この少年のチェスの腕前はどこまで磨かれて行くのか? 破滅するのか大団円で終わるのか? 大人になるまで続くとして何歳までなのか・・・? 
 いまは「ミイラ」が登場し、パトロンのおばあさん(と思わしき人)にキングを倒させたところだが、ページをめくるのが楽しみでもあり、少し怖くもある。
 一方エッセイ集『のりたまと煙突』の星野氏は初めて読むのだが、文章が整頓されていて読みやすいし、物事を掴む視点が面白く興味深い。ところが全12章ある中の第4章『百合』に納められている「のりたま」で状況が一変した。なんとここには過去の事であるにせよ、明らかな犯罪行為が書き記されているのだ。これには魂消た。そしてそこには、これまでに見え隠れしていた卑しい女の姿があらわになってもいる。著者自身も「なんと自己中心的」で「彼の気持ちを考えるということがすっぽり抜けて」おり「衝動的な行動」であったと振り返っているが驚く他ない。そして次の2行でこの文章は閉じられている。


 このツケは、いつかきっと回ってくるだろう。
 これがどんなツケとなって回ってくるのか、その時点ではまだ想像もつかなかった。


 タイトルに掲げた「のりたま」で転じたのだから、最終章『躑躅(つつじ)』にある「煙突」で何らかの解決がもたらされるのではないかと思うのだが、どうなることやら。こちらはこちらで違った意味合いでページをめくるのが楽しみでもあり、怖くもある。
 

 ラジオと読書。どちらも静かな夜を彩ってくれる、私の大切な宝物だ。