あ〜さんの音工房

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ギターヒーローの話

 中学の時のバンドでは、アコギ弾きながら歌う係だった。バンドに誘われたけど、アコギしか持ってなかったから構成上必然的に歌うことになったんだ。歌うことに何の思い入れもなかったし、原曲をろくに聴いた事がなかったから、本人がどう歌っていたのかも知らなかったし、弾けないギターを必死にかき鳴らしながらだったので、結果は推して知るべし。それでも皆できゃっきゃしているのが楽しかったから、続けていた。

 そもそも当時の私が興味を持っていたのは「音楽」ではなくて「ギター」だった。それもかっちょ良くて、大きな音が出る「エレキギター」だった。バンドのエレキギターは、同級生の友達のお兄さんの親戚のお姉さんの行き付けのペットショップのオヤジさんが週に3度は通っている飲み屋に置かれていたとかいなかったとか。要するにどこから来たのか由来が解らない借り物だった。赤くて、ピックガードが黒くて、スライドスイッチが付いていたから、マスタングのようなそうでないようなギターだったと記憶している。

 そんなギターでも、アンプに繋げばちゃんと大きな音が出て、ご機嫌だった。体育館でさらに大きな音を出したときなど、それはそれは良い音で鳴っていた。私のモーリスギターは、どんなにかき鳴らしても大きな音にはならなかった。力木が必要以上に堅牢で、材が合板で、ウレタン塗装だったからだが、もっと大きな音で鳴らしたかったので、アコギ用のピックアップを取り付けていた。それで大きな音は出るようになったが、「きゅいーん、ぐわわん、ぎゃぎゃぎゃー、ぴろろろろーん」とは出来ない。おかしいな、黒くて白くて赤いギターの外人さんのように弾けないぞ。やっぱエレキギターでないと駄目なのか。

 当時のトレンドだった透明な下敷きに、私はその外人さんのグラビアを挟んでいた。「ねぇ、その猿みたいな人、だあれ?」。「エディだよ。エドワード・ヴァン・ヘイレン。スーパーなギタリストなのさ。笑顔で飛び跳ねながらライトハンド奏法するんだよ。すごいんだぜ」。ぽかん顔の女子を尻目に、私はそのグラビアを眺めては「エレキギターが欲しい。エディみたいに弾いてみたいぞ」と悶々としていた。赤くて、トレモロユニットが付いていて、ピックアップがハムバッカーで、22フレットのエレキギター。それが私の望みだった。そんなのあるのか?

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 あった。ありがとう静岡の楽器屋さん。このギターにボスのディストーションを繋いで鳴らして悦に入ったものだ。1度もエディのように弾けた試しは無かったけれど。それでも大きなボリュームでかき鳴らせば気分は上々で、見渡す限りの大観衆から大声援が聴こえて来るかのようだった。これこれ、これだよ。

 以来途中20年ほどのブランクがあるにせよ、唯一続いている趣味がギターの演奏だ。右腕に問題が起きて、弾いていなかった間は寝る間も惜しんで音楽を聴いていて、音楽したい意欲に満ち満ちていたので、再開してからはギターで音楽をする試みを続けている。技術的にはちっとも上達しなかったので、出来る事は限られているが、その範疇で最大限に楽しむ事にした。おかげで日々が充実している。これもエディのおかげかな。

 今年は私をこれまで導いてくれたメンターが鬼籍に入ってしまう。私の人となりに大きく関わる人の死は、受け入れ難いものだ。

 さよなら、エディ。