あ〜さんの音工房

アーカイブはこちら→http://akeyno.seesaa.net/

誕生日に大朗報


「誕生日を祝ってあげよう」


 そうですかと、いそいそと出かけると、一流ギター製作家の中野潤氏が、書き込みだらけの楽譜を持ち出して、ピアソラの『アディオス・ノニーノ』を弾いてくれた。



 いつの間に練習していたんだ。ピアソラ好きは周知のことだが、まさか自分で弾き出すとは。もうすっかり野良ギタリストの仲間入りだな。製作家もある程度は弾けるべきだと数年前に言い出して、ここまで弾けるようになるとは恐れ入った。


 弾き終えた中野氏は、とびきり悪い笑顔を浮かべながら「旦那、良い話がありますぜ」と切り出した。いま演奏したこのギターが売りに出ていると言うのだ。2011年に注文製作されたこのギターは、注文主の期待に添う事が出来ずに、某所で長期在庫されていたそうだ。これまでなぜ売りに出されなかったかと言うと、スケールが657ミリと通常より長く、指板幅もナットで3ミリほど広く、レイズド・フィンガーボードだからだ。少々特殊な仕様なんだ。



 長いスケールと広い指板幅は、演奏性と直結するので、弾き辛いギターは避けるのが賢明だと多くの野良ギタリストは敬遠してしまう。売り辛いんだよ。なので某所から誰かいないかと言う話になったようだ。
 弾いてみると、スケールも指板幅も違和感なし。私のかつての愛器ポール・ジェイコブソンは655ミリだったし、そもそもエレギも弾くので長かろうが短かろうが、広かろうが狭かろうがこだわりがない。なぜ注文主に駄目出しされたのか訊くと主に音色の問題だったらしいが、その音色は耽美で溺れられる方向ではないが、澄んでいてバランスも問題ない。音量は大きくはないが、野良ギタリストが使うには十分だし、なんでクレームが出たのかまるで解らない。良いギターじゃないか。
 なぜ某所で長らく保管されていたのか詳細は計りかねるが、これはチャンスだ。こちとらサビサビのマイカーをレストアしなくてはならなくなり、1度はスチューデントモデルを注文し損ねた身だ。この機会を逃したら一生中野ギターオーナーにはなれないぞ。修理なしで使える中古が40、50万で市場に出れば瞬時に売り切れ、贅を尽くしたトーレスモデルなどプレミアが付いたことでお馴染みの中野ギターだ(一流製作家かつ人気なのは事実)。ここは、こう言うしかない。「リボンを掛けて下さい」。
 

 と言う訳で晴れて中野ギターのオーナーとなる事が出来た。これで胸を張って工房の敷居を跨ぐ事が出来るぞ。ありがたいことだ。



 あ〜さんの「あ」がカタカナだってちっとも構わない。ありがたい、ありがたい。めでたし、めでたし。