あ〜さんの音工房

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怪談ではない話

 こんな話を聞いた。湖畔のサイクルカフェで友人が目撃した怪異。

 リフトアップしたジムニーが(JB23型)山道を登って来ると、カフェの隣にある公共の駐車場に止まった。リフトアップに興味があった友人は、それとなく車を眺めていたが、どうも中の人の動きがおかしい。よくよく見てみると車内で着替えをしているようだ。やがてドアが開き中年の男性が降りて来たが、その人は女装していた。そしてそのおじさんは、ドローンを飛ばしはじめたそうだ。「そりゃ驚いたよ。ドローンはまだしも何故女装せねばならんのだ。合点が行かないよ」。私はおじさん型の妖精か、もののけだろうと返したが「ジムニーで来てるんだ、人だよ」と友人。が、世間にはこんな話もある。

 男性グループが軽自動車で山の廃屋に向かっていた。肝試しをするためだ。大分登ってすっかり道も細くなったが、まだ着かない。男性達は少し広くなった場所に車を寄せて休憩することにした。しばらくすると1台の車が登って来た。日産のシルビアだった。すると助手席の窓が開いて、女性がどうしたのと声をかけて来た。男達は、肝試しに来たが、なかなか目的の廃屋に着かない。この道で良いのだろうかと訊ねると、女性はこの先よと言い残し、シルビアは追い越して行った。あの人達も廃屋へ行くのか(運転手が居たはずだが未確認らしい)。男達はすっかり安心して、用を済ますと先へ車を進めた。道はいよいよ細くなり、ライトが照らす先に橋が見えた。簡素な木製で、とても車は通れない。おかしいと男達はざわついた。休憩場所から脇道のない一本道だったはずだ。軽自動車が渡れない橋をシルビアが渡れるはずはない。追い越して行ったシルビアはどこへ消えたのだ? 車内はお化けだ心霊現象だと大騒ぎになった。女の人と会話したのだから人だよ。けど、どこにもいないじゃないか。お化けだろ。だとすると車までがお化けだったのかよ・・・? 廃屋には辿り着かなかったが、不思議な目にあったって話。

 こんな話もあることだから、お化けジムニーに乗った妖精おじさんが出た説も捨て難いだろうと私が言うと「真っ昼間に大勢で見てるんだから人だって」と友人。が、世間にはこんな話もある。

 看護師さんたちが窓から下の通りを歩いている入院患者を認めた。皆で手を振るとその老人◯◯さんも手を振りかえした。すると看護師長が止めなさいと割って入った。なぜですかと看護師さんたちが訊ねると「◯◯さん今朝亡くなったのよ」。

 こんな話もあることだから、真っ昼間に大勢で見たからって女装ドローンおじさんが、お化けジムニーに乗って来た妖精じゃない理由にはならないだろう。

 女装が趣味の男性は私たちが考える以上に多く存在している。繁華街で火事が起きて女装したおじさんたちがうようよ逃げて来たなどのエピソードは枚挙に暇がないし、今なら女装愛好家のサイトだっていくらでもあることだろう。生涯に1度だけ女装して写真に残す人もあると言う(専門の写真家がいると聞く)。実は女装ドローンおじさんも1人ではないそうなのだ。複数人が目撃されている。世の中には女装してドローンを飛ばす趣味の人が少なからずいるのだ。だからってどうして湖畔の駐車場でやるのかは謎だが、それを否定する権利は誰にもない(その場が飛行禁止区域ではない限り)。

 世間から見れば、ぽろんぽろんとクラシックギターを弾くおじさんたちの集まりだってキモいに相違ないし、ヒルクライムだかなんだか知らないが、ハアハアゼイゼイと汗だくになってこの湖畔に登って来る自転車乗りたちも、自身を虐めるキモいドMたちだと言えなくもない。ここはひとつ心を大きく持って女装ドローンおじさんたちを受け入れようじゃないか。女装もドローンも、どんとこーい。でなけりゃこの先移民だらけになる予定のこの国じゃ暮らせないだろ。

 怪談でも怪異でもない、極々ありきたりな話、でした。